金剛不壊 3





4人は 宿の部屋で ただ黙って座っていた。

他に何もすることが無いのだから 仕方がないことなのだが、

4人ともへとへとに疲れているのも確かだった。

夜中に攫われた を捜して、4人はこの街のあたりを 

しらみつぶしに探してみたが何も手がかりが 得られなかった。

後は 紅孩児が 経文と引き換えにするとか何とか言って来るのを 待つしかない。

に利用価値があるうちは、殺される事はないだろう。

それに 今回は雑魚の手下ではなく、たぶん紅孩児の手元に はいるはずなので、

あの 妖怪の癖に なんだか正義感のある男が、

に乱暴狼藉を 働かないということには、何故だか確信が持てた。

ただ は風邪と過労で 倒れた状態のまま連れ去られたために、

4人はその安否を心配しているのだった。




 どうしているかな? 腹へってねぇかな? 熱下がったかなぁ?

八戒 どう思う?」悟空は ただ頭に浮かんだ言葉を口に上らせただけだったが、

3人も同様の心配をしているのは、口に出さないだけで 同じなのである。

「どうでしょうか? でも 紅孩児さんのところには、八百鼡さんという薬師もいますし

に手当てが必要となれば 放ってはおかないでしょう。

手厚くとはいかないまでも 食事や薬は与えてくれていると思いますが・・・・。」

見るからに元気のない 悟空を励まそうと 八戒は楽観的な推測に基づいて、

作った笑顔で言ってみた。

「それに 美人だから 独角児も大切にしてんじゃねぇの。

兄貴だからっていうわけじゃねぇけど、あいつ 女には優しいはずだからさ。」と

くわえ煙草で 悟浄も言った。




「これだけ この辺を捜しても 手がかりが無い以上は、

紅孩児さんから何か言ってくるのを待つしか無いでしょうね。

こちらに 魔天経文がある以上は たぶんそれと交換とか、

僕たちの命と交換とか言ってくるはずですからね。

それまでは ただ待つしか無いでしょう。」

それも を人質と考えてくれればですが・・・・・・、もし そう考えてくれなかった場合、

心理操作をして刺客として送り込むか 妖怪どもの慰み者にされるか、

最悪 すでに 殺されているということもある。

八戒には その考えも浮かんではいたが、それを悟空に言うのは 

あまりにも残酷だと思って口には出さなかった。

「で そちらのお坊さんよ。

こういう時のために には 何か言ってあるのか?」悟浄は 

読んでいないであろう新聞を広げている 三蔵に話しかけた。




「あ? 何も言ってねぇ。」

三蔵が 落ち着いている振りをしているのは 悟浄もよく解っている。

内心は 新聞など広げていられるような 状態ではないだろうと。

もしかしたら こういう時のために 三蔵が に何か言っているかと思って 

聞いただけなのだが、情けないほどの薄情な答えに がっかりした。

しかし 意外にもそれに明確に答えたのは 悟空だった。

「俺 から聞いたことがあるんだ、前の事件の後で 

助けてくれたお礼を言われた時に、

『もし また 離れることがあったら 出来ることなら自力で、

ダメな時には 皆の迎えを待っている。』って、言ってた。

『たとえ 命が無くなっても 神女だから魂だけでも 帰って来れる。』って、

俺 の魂なんか感じないもん。

だから まだ は生きている。俺達の迎えを待っていると思うんだ。

紅孩児の奴 早くなんか言ってくればいいのになぁ。なぁ 三蔵。」

悟空が 真剣な顔でそう言った。




三蔵は 新聞の陰に隠れて 悟空が言ったの言葉を聞いていた。

確かに 危険で命すら亡くなるかもしれない旅に違いないのだが、

が 魂になっても自分達といたいと思っているということに、

女心の切なさが感じられて うれしいような 悲しいような気分にさせられた。

愛しい女との約束を 三蔵が忘れているわけもなく、

誰が止めようとも その居場所さえわかれば

迎えに行ってやるつもりで 約束を果たすつもりではいるが、

今は ただ 待つことしかできない自分が 恨めしい三蔵だった。

紅孩児のことだ を殺すような事はしないだろう。

しかも 病気の女に無体なこともしないだろうという事には、三蔵には確信があった。

あの男は 自ら部下の危機を救いに 現れるような奴だし、

八百鼡らの態度から見ても女を慰み者にしたり 乱暴を働くようにも見えない。




が悟空に言ったように 思っていて、俺とした約束を守るつもりなら

例え どうされようと 生きる努力をしているだろうと思う。

俺達が ここにこうして 待っている間に 

が1人 苦痛に耐えるような事になっていなければいいとそれだけを願う三蔵であった。

悟空のときのように 声でも聞こえれば それを頼りとすることも出来るのだが、

との間にはそんなこともない。

ただ 待つだけというのは 我慢できない屈辱のように感じられるな・・・・・と、三蔵は思った。





その日一日は そのまま終わった。

次の日も同様にして 4人が過ごしていると、妖怪が1人 手紙をたずさえやって来た。

『預かっている 姫を帰してやる。

明日 そこを発ち 西に向かえ。

              紅孩児』

手紙には それだけが記されていた。

経文と交換だとか 命を差し出せとか 決闘だとかは何も書いてなかった。

それを読んだ三蔵たちは いささか 拍子抜けしたものの 

とりあえず 明日の出発を決めたのだった。







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